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プラストの芽 2026年9月号 55号

サービスを超える瞬間

皆さんへ

私たちの仕事は、「良いサービスを提供すること」でしょうか。

もちろん、それは間違いではありません。

しかし最近、一冊の本を読んで、その先にある本当の価値について改めて考えさせられました。

高野昇さんの著書『サービスを超える瞬間』の中で紹介されているエピソードです。

(お客様に手伝ってもらうのもホスピタリティのひとつ

こんなシーンを想像してください。

小さなお子さんがいる家族連れのお客様が、ルームサービスで朝食をとられました。ルームサービスのウエイターが食事の準備を始めると、お子さんが珍しそうにウエイターを見ています。どうやら皿やグラスを並べる無駄のないプ口の動きに興味津々の様子です。

そんなとき、リッツ・カールトンのウエイターなら、お子さんにこう声をかけるかもしれません。

「お嬢ちゃん、良かったらお兄さんのお手伝いをしてくれないかな?」制服を着た大人から頼まれると、自分も大人になった気分になるのかもしれません。たいていのお子さんは唐々として手伝ってくれます。

その様子を見ていたご両親も、

「あら、家ではちっとも手伝ってくれないのに、どうしちゃったのかしら?」

どと言いながら、にこやかにわが子の奮闘振りを見守ってくれます。

ホテルによっては、これはサービスのプロとして失格、という見方もあるでしょう。

しかし、サービスの目的はお客様に快適で楽しい時間を過ごしてもらうことにあります。そのためであれば、お客様をステージに上げてしまってもいいと私は思うのです。

もちろんお子さんが一生懸命やってくれたあとで、さりげなく並べ直して、プロとしての仕上げをする必要があります。

そのウエイターが退室したあと、数分後に、こんどは別のウェイトレスが数種類のジュースをトレイに載せて登場します。

「さっきはお兄さんのお手伝いをしてくれてありがとう。このジュースは、ホテルからお嬢ちゃんへのお礼です」

こういう出来事があったときのご家族の朝食風景からは、笑い声が聞こえてくるような気がしませんか?

このような心配りで、その場の楽しい気持ちを、お客様の旅の大事な思い出にまで高めていくのです。)

この話を読んで、とても印象に残ったことがあります。

ホテルスタッフは、お子さんにサービスを「提供」したのではありません。

お子さんに「参加してもらった」のです。

もしホテル側が効率だけを考えれば、自分でテーブルを準備した方が早く、きれいに仕上がります。

しかし、そのウエイターは目の前の効率ではなく、

その家族にとって、どんな時間が生まれるか。

その先の笑顔を想像していました。

だからこそ、

「お手伝いしてくれないかな?」

という一言が生まれたのだと思います。

サービスを受ける側だった子どもが、その瞬間だけはサービスを一緒につくる側になりました。

そこに、このホテルが提供した本当の価値があったのではないでしょうか。

私は、この話は私たちの仕事にもよく似ていると思いました。

利用者さんは、サービスを受ける人。

私たちは、サービスを提供する人。

そんな関係になっていないでしょうか。

もちろん、安全で質の高いサービスを提供することはとても大切です。

しかし、それだけでは利用者さんは「受け身」のままです。

例えば、

リハビリであれば、「あと10回頑張りましょう。」ではなく、

「今日は何ができるようになりたいですか?」という問いかけに変える。

デイサービスでも、

活動を提供するだけではなく、

利用者さん自身が役割を持ち、誰かの役に立つ機会をつくる。

こうした少しの違いが、

サービスを受ける人から、

人生の主人公へと変わるきっかけになるのだと思います。

利用者さんも、本当は誰かの役に立ちたい。

ありがとうと言われたい。必要とされたい。挑戦したい。

そんな気持ちを持っているかもしれません。

私たちの役割は、

できないことを代わりに行うことだけではなく、

その人が「できる」場面をつくることなのではないでしょうか。

ぜひ今月は、こんな問いを持ってみてください。

「私はどんな価値を提供しているだろうか。」

サービスは、相手のために何かをしてあげること。

ホスピタリティは、相手の中にある可能性を引き出すこと。

その違いを少し意識するだけで、私たちの声のかけ方や関わり方は、きっと変わってくると思います。

一人ひとりが人生の主人公になれるように。

そんな関わりを、これからも大切にしていきましょう。