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人生に引かれる、一本の横線:プラストの芽(2026年8月号)54号

先日、元リッツ・カールトン社長の高野さんと元フロリダディズニー上田さんの講演を聞く機会がありました。

お二人に共通しているのは、華やかな経歴や成功体験だけを語るのではなく、その背景にある人との出会い、迷いや失敗、自分を変えるために重ねた努力を、率直に語られていたことです。

今回の講演でも、リッツ・カールトンやディズニーでの経験だけでなく、お二人の人生を大きく変えた人とのご縁や、生き方そのものについて語られていました。

その中で、特に印象に残ったのが、

「人生は、あみだくじのようなもの」

という話でした。

あみだくじは、一本の縦線をそのままたどっていけば、最初に予想した場所へ向かいます。

しかし、途中に一本の横線が入ることで、進む方向が変わります。

自分では想像していなかった場所へ行くこともあります。

この横線にあたるものが、人との出会いや、思いがけない機会なのではないか、という話でした。

振り返ってみると、人生にはたくさんの横線があります。

誰かに声をかけられたこと。

たまたま参加した勉強会。

紹介してもらった人。

偶然目にした一冊の本。

そのときは大きな意味を感じていなくても、後から振り返ると、あの出会いによって進む方向が変わっていたと気づくことがあります。

ただ、同じ場所にいても、その横線に気づく人と、気づかない人がいます。

出会いが人生を変えるのではなく、その出会いをどう受け取り、どう行動に変えるかによって、その後が変わるのだと思います。

講演の中では、会いたいと思った人に会うために、何人もの人をたどり、諦めずに行動した話が紹介されていました。

最初から、

「そんな人には会えない」

「自分には無理だ」

と知りすぎていたら、行動できなかったかもしれません。

知らないことは、時に弱みではなく、力になります。

難しさを知らないからこそ、素直に一歩を踏み出せることがあります。

もちろん、ただ無鉄砲に進めばよいということではありません。

大切なのは、自分が本当にやりたいと思ったことに対して、正しい方法で、できる手段を考え続けることです。

諦めずに動くことで、次の人につながり、さらに次の横線が引かれていきます。

そして、人生の横線は、人との出会いだけではありません。

これまで自分が聞いてきた言葉や、経験してきたことも、自分の中に残っています。

講演では、仏教の「阿頼耶識(あらやしき)」という考え方にも触れられていました。

人とのご縁や、自分の言葉、行動、思いは、消えてなくなるのではなく、自分の中に蓄積されていくという考え方です。

すぐに結果が出なくても、種のように自分の中に残り続けます。

そして、ある出来事や出会いをきっかけに、その種から芽が出ることがあります。

この「プラストの芽」という社内報の名前も、どこかその考え方に近いように感じました。

日々の仕事の中で、私たちはたくさんの種をまいています。

利用者さんにかけた一言。

スタッフ同士で交わした言葉。

誰かのために少し工夫したこと。

うまくいかなかった経験。

学んだけれど、まだ実践できていないこと。

今は小さく、目に見えないものでも、どこかに蓄積されています。

いつ芽が出るかは分かりません。

数日後かもしれませんし、数年後かもしれません。

大切なのは、どのような種を自分の中に残し、どのような種を周囲に渡していくかです。

 

その話からつながって、もう一つ印象に残ったのが、「足るを知る」という言葉でした。

私たちは、つい足りないものを見てしまいます。

もっと成長したい。

もっと成果を出したい。

もっと会社を良くしたい。

もっと認められたい。

向上心を持つことは、とても大切です。

PLASTも、現状に満足せず、常に新しい可能性を考えてきました。

ただ、足りないものばかりを見続けると、今すでに持っているものが見えなくなることがあります。

自分ができるようになったこと。

助けてくれる仲間がいること。

働ける場所があること。

利用者さんから必要とされていること。

今日も命があり、誰かと関わることができること。

まず、今あるものに気づく。

自分がすでに受け取っているものを知る。

そこに感謝が生まれると、次は、自分が周囲に何を渡せるだろうと考えられるようになります。

自分が満たされていない状態では、人に優しくしたり、周囲に気を配ったりすることは簡単ではありません。

だからこそ、まず自分自身を大切にすることが必要です。

自分を満たすことは、自分だけが得をすることではありません。

自分に余白ができれば、人に優しくできます。

誰かの話を聞くことができます。

困っている人に気づくことができます。

そうして、自分が受け取ったものを次の人に渡していく。

幸せは、一人の中で完結するものではなく、人から人へと循環していくものなのだと思います。

講演の中で、最も心に残った問いがあります。

「あなたという存在の何が、周りの人を幸せにしているのか」

という問いです。

自分は何ができるのか。

どんな資格を持っているのか。

どのような成果を出したのか。

そうしたことを考える機会は多くあります。

しかし、自分という存在の何が、誰かを幸せにしているのかを考える機会は、それほど多くありません。

理学療法士だから。

看護師だから。

介護職だから。

管理者だから。

デザイナーだから。

役職や職種によって生まれる価値もあります。

しかし、それだけではないと思います。

あなたが笑顔で挨拶することで、安心している人がいるかもしれません。

話を最後まで聞くことで、救われている人がいるかもしれません。

誰かが気づかなかったことに気づくことで、助かっている人がいるかもしれません。

真面目に仕事に向き合う姿を見て、頑張ろうと思っている人がいるかもしれません。

自分では当たり前だと思っていることが、誰かにとっては大きな支えになっていることがあります。

この問いには、明確な答えがないのかもしれません。

一度答えを出して終わるものでもありません。

今日の自分は、誰を幸せにできるだろう。

今の自分だからこそ、渡せるものは何だろう。

そう問い続けること自体に、意味があるのだと思います。

PLASTには、さまざまな職種、価値観、経験を持った人が働いています。

一人ひとりが、誰かの人生に引かれる一本の横線になる可能性を持っています。

利用者さんの人生の方向を変える横線。

スタッフの考え方を変える横線。

地域に新しい選択肢を生み出す横線。

自分では、その影響に気づかないこともあります。

しかし、日々の言葉や行動は、誰かの中に種として蓄積されていきます。

だからこそ、自分の存在が周囲に何を残しているのかを、時々立ち止まって考えてみることが大切です。

今日、自分がまく種は何か。

今日、誰の人生に一本の横線を引くのか。

そして、

自分という存在の何が、周りの人を幸せにしているのか。

すぐに答えが出なくても構いません。

この問いを持ちながら働くことが、人の可能性を街につないでいく、最初の一歩になるのだと思います。